西洋医学と中医学、身体へのアプローチの違い

「西洋医学と中医学、どちらも“医学”なのに、なぜ統合されないのだろう?」

これは私が長年感じていた疑問でした。しかし、実際に両方を学んでみると、その理由がはっきりと見えてきました。それは、身体へのアプローチ方法が根本的に異なるからです。


アプローチの根本的な違い

西洋医学は、症状の直接的な原因を探し、治療することを目的とします。たとえば、「症候群」と呼ばれる原因不明の症状に対しても、表面に出ている困った症状を止めることを優先します。

一方、中医学(伝統中国医学)は、症状だけに注目するのではなく、全身に現れている複数のサイン(指標)をもとに、バランスの乱れを見つけ出し、全体を整える治療を行います


医学としての構造の違い

西洋医学の基本は、解剖学・細胞学・生化学など、身体をミクロに分解して理解することにあります。臓器や組織の機能を個別に修復する方法論です。しかし、その局所性ゆえに、治療の副作用や整合性の問題が起こることもあります。

それに対して、中医学は、身体を大まかな機能単位(五臓六腑など)で捉え、「気」や「血」などのエネルギーの流れとバランスに注目します。そのため、一見関係なさそうな部位を調整することもありますし、「毒をもって毒を制す」といった戦略も使います。


なぜ統合が難しいのか?

たとえば、中医学における「解剖学」は、五感を駆使した観察の積み重ねから生まれたもので、外からの触感と、臓器が自然崩壊した後の観察によって体系化されています。これを西洋医学の論理で説明するのは困難です。

また、西洋医学は、高精度な観察機器によるデータに基づいた科学体系であり、中医学が生まれた時代背景とはまったく異なります。この違いが、両者の「統合」を難しくしているのです。


それでも、歩み寄る道はある

互いの方法論をそのまま取り入れることはできないかもしれません。しかし、「相手を否定しない」前提に立つことで、共通点や変換可能な部分が見えてきます

  • 西洋医学の立場から、中医学の手法を実践し、そこで感じたことを測定データと照合してみる。

  • 中医学の立場から、自らの経験則を西洋医学的な測定法で表現し、エネルギーの流れを解析してみる。

このように、互いの視点を理解しようとするプロセスこそが、統合の鍵になるのかもしれません。


次回は、中医学の基本概念「唯物観」についてご紹介します(※西洋哲学の「唯物論」とは異なります)。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。